まぶた 小川洋子

まぶた (新潮文庫)

まぶた (新潮文庫)

彼女の本は、「薬指の標本」だけしか読んだことがありませんでした。薬指〜はあまり面白いとも思いませんでしたがやっぱりとても惹きつけられる短編であることに間違いは無い。
「まぶた」はうすっぺらい文庫の中に6話だかそのぐらいの短編が詰まっていて、それぞれがどこか懐かしいような湿度と恐ろしさを持った話になっている、と思います。好きだ。
たかだか30ページに収められている彼/彼女らの生き方や生活の一こまには微塵の現実感もなくだけれども味わったことのあるような恐ろしさや懐かしさやいとおしさを感じて、何か心の底が少しだけ冷たくなったりあたたかくなったりするような感じを受けるのであります。さらっとしたいやらしさには、体温を感じたり感じなかったり、それもまた興奮とは別の次元で心を乱されるものなのだなぁと何となく思います。足フェチとかまぶたフェチとか、ね!
お洒落というのもどこか違う、けれども決してださくはなく、いやそういう問題じゃない、きもちわるさときもちよさが同居したような短編集です。おもしろい/おもしろくないではなく、魅力的な作品であると思います。
「詩人の卵巣」が私は好きで、それは、それまでひたすらしずかに湿った空気を帯びていたこの本が、ある一文で思いっきり安部公房クオリティなにおいを放ち始めたから、です。たまんねーなたまんねーよ!